悪夢
2012年 05月 14日
夜の暗い道を歩いていました。
安爾をだっこして歩いていました。
安爾はいつもの様に白いバスタオルでくるんで、
顔だけ出して、だっこしていました。
安爾は目を瞑っていて、
いつもの様に具合の悪そうな顔。
早く病院へ行かなくちゃ。
夜は暗くても、それに目が慣れるもので、
普通は辺りがぼんやりと見えるものですが、
まったく、かすかにも見えない。
本当に黒、真っ黒なんです。
黒の闇をどうして歩けたかというと、
街灯がありました。
昔の、木の電信柱に付いている様な、電球一つの、古い電灯。
そうかと思うと
バイパス道路にある様な、上が曲線になっている、背の高い街灯、が、
歩く道の左手に、遠く離れて点々とあって、
その下だけが丸くはっきりと明るい。
街灯の下にきて明るくなったら、
安爾の頭や顔を見て、
そして、前を向くと、
ずっと向こうにぼんやりと、でもくっきりと、丸い灯りがある。
次の街灯に照らされた道の丸い灯り。
道が照らされた丸い灯りを目指して、
また黒い中を歩きました。
しばらく歩いたら、その街灯の横に白い建物があって、
道に面した壁が無くて、ドアも無くて、光が大きく漏れていました。
病院だと思いました。
でもなぜかドアを開けて中に入る。
中に入ったら天井が高くて壁も全部が白い。
とても明るい。病院のかんとしたよそよそしい明るさ。
白衣を着た看護婦さんが3人、か、4人、
受付は近いのに、随分遠くに立っていて、
また明日来てくださいと言われた様な気がしました。
(右手奥にドアがあってその向こうが診察室なんだなと思った)
それで私は、(ああもう9時45分近いし...)と思った。
時計を見た様な、見なかった様な。でも時間はそうだと思いました。
診察してもらえなかったことは、なぜだかがっかりはしていなくて、
また来ようと思いました。
今は早く家に帰らなければ。
こんなに遅くなってしまった。
安爾は目を瞑っていておとなしい。
私の左腕と胸は、安爾の体温で温かい。
ああ私は安爾をしっかりとだっこしている。
早く帰ろう。
アスファルトの道路をあるいて、急な坂道をぐるりと迂回する様に下ると、
バス停があって、バスが何台か連なって停まっていました。
すごい人。
沢山の人が並んでいて、バスの中も人がいっぱいで。
バスには乗れないんだ...
この人では次のバスも駄目だ。
バスには乗れないんだ...
そう思った途端、とても悲しくなって、
それまで我慢してきた悲しみがまとまって
とても悲しくて
どうして私はこんなに独りぼっちなんだろう。
悲しくて悲しくて
あに、あにと言いながら、強く抱き締めながら、
泣きじゃくった。
うーうーと泣いてる?
私が泣いている?
自分の呻き、泣いている声で目が覚める。
安爾の夢を見たんだ......
酷い汗でびっしょりだ。
まだ真っ暗... なんでこんなに暗い?今は何時?
とりあえず、電気を点けなきゃ。
でも、鉛の様に重くて動かない体。
汗がどんどん冷たくなっていく。
自分では無い様な重い体を何とか引きずって、壁と本棚にすがりつき、
半分起き上がれたところで、壁にあるスイッチに必死に手を伸ばした。
...... 点かない。何で?
ああ、電灯の方か。電灯のヒモを引かなきゃ。
...... あれ?でも、何で私、お布団の中?
ハッと目が覚めた。
...... 今のも、夢?
ぞっとして背筋に寒気が走る。
電気、電気点けなきゃ!
悪いけど夫を起こそうと横を見る。
いつもの様に夫は寝ていて、布団を被った塊がそこにあった。
でも... なぜだか怖い。
夫のはずなのに、ぴくりとも動かないその塊が死人のようで
怖い... 怖い!
アケウはどこ?!ちゅらは?!
必死で立ち上がって電灯のヒモを引っ張る。
カチ...... カチカチ!カチカチ!
何で点かないの?!
あ!さっきのは夢だから、今度こそ壁のスイッチ?
でも何でまた私...... お布団の中なの?!
鳥肌が立つ。
汗が凍ったように冷たい。
何度も繰り返す絶望
孤独な夢
ガクガクと震える程の焦り
心臓の音が激しく耳から聞こえてうるさい
それなのに
頬を伝う涙だけは静かで。